軽度認知障害のよくある症状
- ●物忘れが増え、もしかしたら認知症かもと不安に感じ始める
- ●同じ話を繰り返してしまい、周りに指摘される
- ●物や人の名前が咄嗟に出てこず「あれ」「それ」など代わりに使ってしまう
- ●なじみのある場所でも道に迷って困惑することがある
- ●外出の機会が減り、人付き合いが少なくなる
- ●料理を作る気力がわかなかったり、献立を考えるのが難しくなったりする
軽度認知障害とは
軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)は、認知症の手前で、健常と認知症の間の状態です。物忘れなどの認知機能低下がみられるものの、認知症そのものではありません。「認知症予備軍」とも言われ、放置しておくと認知症に移行するリスクがあります。
軽度認知障害(MCI)は、適切な予防や生活改善に取り組めば、健常な状態へと回復したり、認知症への進行を遅らせたりできる可能性があるとされています。
軽度認知障害の有病率
2022年に福岡県久山町、石川県中島町、愛媛県中山町、島根県海士町の4地域において推計した値では、「高齢者における軽度認知障害(MCI)の有病率(性年齢調整後)は15.5%」1)と報告があります。
この値をもとに軽度認知障害(MCI)の有病率は2040年には15.6%、2060年には17.4%になると推計されています。1)
軽度認知障害の原因
軽度認知障害は、さまざまな要因が重なって発症すると考えられています。以下に代表的な要因を挙げます。
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1.生活習慣の乱れ
偏った食生活や運動不足、睡眠の質の低下などが認知機能の低下を引き起こし、認知機能全般に悪影響を及ぼすと考えられています。また、高血圧や糖尿病などの生活習慣病、喫煙、過度のアルコール摂取は脳卒中を引き起こし、脳血管性認知症の原因となります。
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2.加齢
加齢により、脳の神経細胞の萎縮や脱落、老人斑の出現などの変化による認知機能の低下も要因の一つです。
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3.認知症に関係する病気
認知症を引き起こす病気も要因となります。
- アルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症などの認知症
- 脳炎、神経梅毒などの感染症
- 原発性脳腫瘍、転移性脳腫瘍などの脳腫瘍
- 慢性硬膜下出血、脳挫傷などの外傷
- 正常圧水頭症などの髄液循環障害
- 甲状腺機能低下症、副甲状腺機能亢進症などの内分泌障害
- アルコール中毒、ビタミンB12欠乏など
軽度認知障害の詳しい症状
「物忘れ」や「同じ話を繰り返す」などの症状以外にも、軽度認知障害では以下のような症状がみられることがあります。
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● 日常の判断力や計画性の低下
買い物の予定や家事の手順がスムーズに思い浮かばない、複数の用事を同時にこなすのが困難になります。
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● 外出や交流の意欲が減退
認知機能の衰えを自覚して人との会話や外出を億劫に感じ、交流や参加の機会を避けるようになります。
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● 趣味や活動への興味が薄れる
以前は楽しんでいた趣味をする気力がわかず、家でぼんやり過ごす時間が増えます。
このような状態が続くと、活動性の低下や社会的な参加の機会が減り、ますます認知機能が低下しやすくなるという悪循環に陥るリスクがあります。
軽度認知障害の診断
軽度認知障害の診断は、本人や家族への問診や認知機能を評価する検査、脳の画像検査などを行い、Petersen基準やDSM-5の診断基準に沿って診断します。
主に以下の3つを総合的に評価します。
- 記憶力や認知機能に低下がみられるか
- 日常生活にどのくらいの支障をきたしているか
- 他の精神疾患(うつ病など)や身体的な病気による影響ではないか
当院では、血液検査や認知機能検査が可能です。必要に応じて総合病院と連携してCTやMRIなどの精密検査も実施できる体制を整えています。認知症やその他の病気との鑑別をより的確に行い、適切な治療方針の立案に努めています。
軽度認知障害の治療
軽度認知障害(MCI)は、適切なケアや生活習慣の改善によって健常な状態に回復する可能性があると報告されています。2)一方で、放置すると認知症へ移行するリスクが高まる恐れもあります。
当院では、認知症への移行リスクとして挙げられる「不眠、うつ傾向、偏った食生活、運動不足、不活発な生活」などに対し、以下の予防・治療を行っています。
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1.生活習慣の改善・指導
栄養バランスの取れた食事や適度な運動、十分な睡眠など、基本的な生活習慣の見直しをサポートします。社会的交流や趣味活動などの参加により、活動性の向上を促します。
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2.薬物療法の検討
軽度認知障害(MCI)そのものを「薬で治す」のではなく、生活習慣の改善を図るための補助的アプローチとして、うつ症状や不眠、その他の身体的問題に対する薬物療法を検討します。
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3.リハビリテーション
記憶力や注意力、判断力などを維持・向上させるためのプログラムを検討します。
頭を使う課題やゲーム、パズル、読み書き、クイズなどの活動や運動、趣味活動・地域活動への参加などを日常的に取り入れていただくことも有効です。
当院は、ご本人はもちろん、ご家族の方との連携も重視し、前向きに治療を続けられる環境づくりを心がけています。
このような症状があれば受診を
- 「物忘れが増えてきて、周囲から指摘されるようになった」
- 「外出が減り、引きこもり気味で会話も少なくなった」
- 「料理や家事が億劫になり、同じ献立ばかりで困っている」
- 「認知症かもしれないと不安だが、検査を受けていない」
上記のような症状や心配がある場合、軽度認知障害の可能性を視野に入れて、早めの受診をおすすめします。軽度認知障害(MCI)の段階であれば、適切な生活習慣や環境調整によって認知機能の改善や、認知症への進行予防が期待できます。
当院では、検査体制を整えて診断し、本人や家族に寄り添った総合的なアプローチにより、日常生活、社会生活をサポートいたします。
- 1) 厚生労働省 認知症および軽度認知障害(MCI)の高齢者数と有病率の将来推計
https://www.mhlw.go.jp/content/001279920.pdf - 2) Hiroyuki Shimada et al.Conversion and Reversion Rates in Japanese Older People With Mild Cognitive Impairment,J Am Med Dir Assoc.2017;18(9):808.e1-808.e6
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28711424/