双極性障害(躁うつ病)のよくある症状
- ●気分が高まり強いイライラや興奮状態が続く時期がある
- ●調子の良いときは睡眠時間が少なくても元気に活動できる
- ●意欲が極端に落ち込む時期は、何も手につかず寝込んでしまう
- ●テンションが高いときにアイデアや考えが止まらず、せわしなく振る舞ってしまう
- ●元気な時期とうつ状態が交互に訪れ、生活リズムや人間関係にも影響が出る
双極性障害(躁うつ病)とは
双極性障害(躁うつ病)は「躁状態」と「うつ状態」が繰り返される状態です。単極性のうつ病(一般的なうつ病)では、うつ症状が主であるのに対し、双極性障害では気分が高揚する状態(またはイライラが強くなる状態)と、気分が落ち込む状態の両方がみられます。
躁とうつの波の幅や頻度には個人差があり、極端な高揚と抑うつを繰り返す方もいれば、軽い躁状態(軽躁)と重い抑うつ状態が交互に現れる方もいます。
双極性障害(躁うつ病)の有病率
双極性障害の「日本での有病率は、約0.1〜0.4%程度」1)と推計されています。発症しやすい年齢は「10代後半~20代前半」1)と言われています。
軽躁状態のみを経験する方が「ただの元気な性格」と見なされ、受診に至らないケースも多いため、実際の数は報告よりも多いかもしれません。
双極性障害(躁うつ病)の原因
双極性障害(躁うつ病)の原因は、単一の要因だけで説明できるわけではなく、複数の要因が絡み合って発症すると考えられています。主な要因としては以下のようなものがあります。
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1.遺伝的・生物学的要因
家系内に双極性障害の方がいる場合、発症リスクが高まると言われています。
脳内の神経伝達物質(セロトニンやドーパミンなど)のバランスやホルモン調節機能の乱れなど、生物学的な要因の関与も考えられています。 -
2.生活習慣やストレス要因
夜勤や引っ越しなどの急激な生活リズムの変化、職場や学校、家庭などの人間関係トラブル、過度の責任やプレッシャー、経済的問題など、強いストレスがきっかけとなる場合があります。
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3.環境的要因
発症リスクを高める環境要因として、胎生期の母親のインフルエンザ感染や喫煙、小児期の幼少期のストレスやトラウマの影響が指摘されています。
双極性障害(躁うつ病)の詳しい症状
冒頭で挙げたような「気分の高まり」と「気分の落ち込み」が交互に現れる気分障害で、症状の現れ方は個人によって異なります。主な症状は次のように分類できます。
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1.躁状態(または軽躁状態)の症状
- エネルギッシュでほとんど眠らなくても平気で活動する
- 多弁や衝動的な行動(浪費、ギャンブルなど)が増える
- 過剰な自信や誇大的な発言をすることがある
- 怒りっぽくなったりイライラが続く場合もある
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2.うつ状態の症状
- 気分が沈み、無気力や倦怠感が強くなる
- 集中力や思考力の低下、物事への興味や喜びの喪失
- 食欲や睡眠パターンの乱れ(食欲不振・過食、睡眠過多・不眠など)
- 自責感が強くなり「自分には価値がない」と思い詰めやすい
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3.双極Ⅰ型と双極Ⅱ型
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双極Ⅰ型
躁状態が重く、社会生活に重大な支障をきたすレベル(場合によっては入院が必要)に至ります。非常に活動的な反面、事故やトラブルに巻き込まれることもあり、治療を早急に行わなければなりません。
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双極Ⅱ型
躁状態が比較的軽い(軽躁)ため、周囲からは「元気が良い」「テンションが高い」程度に捉えられ、受診につながりにくい場合があります。ただし、うつ状態がかなり重くなることもあり、生活に深刻な影響を及ぼすリスクがあります。
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双極性障害(躁うつ病)の診断
双極性障害の診断は、DSM-5(精神障害の診断と統計マニュアル第5版)やICD-10/ICD-11(国際疾病分類)などのガイドラインにもとづき、問診を中心に医師が総合的に行います。
具体的には、以下の3つを確認していきます。
- 気分変動の履歴(躁状態・軽躁状態・うつ状態がどの程度続いたか)
- 家族歴や身体的な病気の有無
- ストレス要因や生活リズム
双極Ⅱ型の場合、軽躁状態に本人や周囲が気づきにくいため、うつ状態のみを訴えてうつ病(単極性)と誤診されるケースが少なくありません。うつ症状のみを訴える患者様にも過去に気分が異常に高揚した時期や活動性の亢進がなかったか慎重な確認が重要です。
双極性障害(躁うつ病)の治療
双極性障害の治療では、気分安定薬を軸とした薬物療法がガイドライン上でも有効とされています。治療の基本方針として、気分の波を安定させることを優先し、躁状態・うつ状態双方の再発予防が重要視されます。
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1.薬物療法
代表的な気分安定薬としてリチウム、バルプロ酸などが挙げられ、抗精神病薬のアリピプラゾール、クエチアピン、リスペリドンなどの併用療法が推奨されています。双極性障害のうつ状態に抗うつ薬を用いる際は、躁転(うつ状態から躁状態へ急に変わること)のリスクに十分注意しながら投与することが重要です。
薬物療法では薬の血中濃度が有効域に達しているか、あるいは中毒域に近づいていないかを定期的な血液検査でチェックすることが必要です。当院では、治療ガイドラインに従って検査を実施し、患者様一人ひとりの状態に合わせた投薬調整を行っています。 -
2.精神療法・心理社会的支援
薬物療法だけでなく、認知行動療法(CBT)などの精神療法や家族療法、生活リズムの確立指導なども大切です。環境調整やカウンセリングを通じて、気分の波をコントロールしやすいライフスタイルを身につけるサポートを行います。
当院では、ガイドラインを踏まえつつ、患者様のライフスタイルや個別の背景を重視し、薬物療法と適切な精神療法を組み合わせて治療を進めています。
このような症状があれば受診を
- 「調子の良いときと悪いときの落差が激しく、どちらも極端になる」
- 「仕事や家事に意欲的に取り組める時期と、何もできない時期を繰り返している」
- 「まわりから『性格の問題』と言われるけど、どうしても抑えきれない気分の波がある」
- 「うつ状態と言われて薬を飲んでいるが、妙にハイになる時期もある」
こうした症状や気分の変動を自覚している方は、一度精神科・心療内科などにご相談ください。ご本人だけでなく、ご家族や周囲の方の「気づき」が早期受診につながることもあります。
双極性障害は薬物療法や生活リズムの調整により、気分の波を安定させ、社会生活を続けることが十分に可能です。精神科診療を専門とする医師が丁寧にお話を伺い、ガイドラインに沿った治療方針のもと、一人ひとりに合ったサポートを提供いたします。
- 1) 日本うつ病学会 日本うつ病学会診療ガイドライン 双極性障害(双極症)2023
https://www.secretariat.ne.jp/jsmd/iinkai/katsudou/data/guideline_sokyoku2023.pdf

