うつ病のよくある症状
- ●気分が晴れず、憂うつな状態が長く続いている
- ●これまで楽しめたことが、今は楽しめなくなった
- ●何をするにも億劫に感じ、すぐに疲れてしまう
- ●落ち着かず、すぐに行動に移してしまうことがある
- ●寝つきが悪く、朝早く目覚めることが増えた
- ●食欲がなく体重が減った
- ●病院に行っても原因がわからない、頭痛や肩こり、吐き気、めまい、耳鳴り、下痢などの体調不良が続いている
うつ病とは
うつ病とは、気分の落ち込みや意欲の低下などの精神的な症状とともに、食欲不振や睡眠障害などの身体的な症状が持続的に現れる状態です。
糖尿病や高血圧、脂質異常症といった生活習慣病のように、誰もがなりうる可能性を持っています。ただし、生活習慣病と異なるのは、血液検査や画像検査などの明確な数値で把握しにくい点です。そのため、専門的な知識と経験を持つ医師による診断が重要といえます。
うつ病の有病率
日本におけるDSM-Ⅳ(米国の診断基準)によるうつ病(大うつ病性障害)の生涯有病率はおよそ6.5%1)と報告されています。未受診で抑うつ症状に悩む人もいると考えられるため、実際にはさらに多くの人がうつに関連する問題を抱えている可能性があります。
現代社会は、ストレス要因が増えやすい環境にあるため、うつ病は決して特別な人だけがかかる病気ではありません。
うつ病の原因
うつ病の発症にはさまざまな要因が関与しており、主に以下のように分類されます。多くの場合、これらの要因が複合的に影響し合い、発症に至ると考えられています。
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1.遺伝的・生物学的要因
脳内の神経伝達物質(セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンなど)の機能異常が、うつ病の発症に関与しているとされています。ストレスを抱えやすい真面目で責任感が強い性格や家族歴などの遺伝的な要因の関与も言われています。
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2.心理的要因
仕事や家庭、対人関係などのストレスが重なり、心の疲弊が限界を超えると、憂うつな気分や意欲の低下が生じやすくなります。経済的困難や死別、被災、重篤な病気の発症などの重大な喪失に対する反応として、抑うつ症状が生じる場合もあります。
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3.社会的要因
経済的な不安や職場環境の変化、孤立感などが引き金となることもあります。たとえば、リストラや転勤、介護などのライフイベントが積み重なると、うつ状態に陥るリスクが高くなります。
うつ病の詳しい症状
うつ病では気分の落ち込みや意欲の低下が中核症状となります。しかし、実際にはそれだけでなく、以下のようなさまざまな症状がみられます。
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1.精神的な症状
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焦燥感や落ち着きのなさ
ソワソワして自分でもどうしようもない感情に駆られることがあります。
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思考力や集中力の低下
仕事や勉強に集中できず、生産性が落ちてしまうことも少なくありません。
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罪悪感や自己評価の低下
「自分は何をやってもダメだ」というように、自己否定的な考え方に支配されることがあります。
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2.身体的な症状
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不眠症状や過眠症状
寝つきが悪くなったり、途中で目が覚めてしまったりするほか、逆に長時間寝ても疲れが取れない場合もあります。
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原因不明の身体症状
原因不明の頭痛や肩こり、消化器症状、めまい、動悸、食欲低下などが長く続き、医療機関を転々とするケースも珍しくありません。
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3.症状の長期化による影響
症状が長期化すると、日常生活や仕事への支障がさらに大きくなり、社会的な孤立につながる恐れもあります。
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4.新型うつについて
最近、メディアで取り上げられることが増えた「新型うつ」という言葉は、実は正式な病名としては認められていません。
「新型うつ」と呼ばれる特徴の一つとして、「仕事には行けないのに、遊びには行ける」といった症例が挙げられることがあります。しかし、これは従来のうつ病とは異なるケースであり、発達障害や双極性障害の症状が誤って「新型うつ」と認識されている場合もあります。
同じ「うつ」という言葉がついていても、その背景や適切な治療は異なるため、精神科の診療を専門とする医師による的確な診断を受けることが重要です。
うつ病の診断
うつ病の診断は、DSM-5(精神障害の診断と統計マニュアル第5版)や日本うつ病学会の治療ガイドラインをもとに、問診を中心に行われます。抑うつ気分や興味・喜びの低下、睡眠障害、食欲の変化、疲労感、集中力の低下、罪悪感などの症状を評価し、少なくとも2週間以上持続している場合に診断されることが一般的です。
また、診断の際には「物質・医薬品誘発性抑うつ障害」や「他の医学的疾患による抑うつ障害」との鑑別が重要であり、服薬歴や既往症の確認が不可欠とされています。
うつ病の治療
うつ病の治療には、薬物療法、精神療法(心理療法)、休養・環境調整があり、患者様の症状や背景に合わせて柔軟に組み合わせることが重要です。
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1.薬物療法
抗うつ薬(SSRI、SNRI、三環系抗うつ薬など)が用いられ、必要に応じて睡眠薬や抗不安薬を併用します。過度な薬の使用は避け、患者様の状態に合わせた必要最小限の処方を心がけています。
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2.精神療法・カウンセリング
認知行動療法(CBT)や対人関係療法(IPT)などを取り入れ、思考パターンや行動パターンを整理することで、症状の緩和を目指します。
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3.休息・環境調整
重いストレスが原因の場合、仕事や生活環境を一時的に調整して休養をとることで、回復しやすい状況を整えます。症状の慢性化や社会復帰の遅れが生じないよう、患者さまと相談しながら進めます。
当院では、患者様一人ひとりの状況を丁寧に把握し、薬物療法と認知行動療法を主体とした精神療法を組み合わせた治療を大切にしています。
このような症状があれば受診を
- 「憂うつな気分が続いていて、何事にも興味や意欲がわかない」
- 「体の不調が長引いているのに、他の診療科を受診した際には異常なしと言われた」
- 「仕事に行くのがつらいが、休日は問題なく過ごせる気がする」
- 「自分はうつじゃないと思っていたけど、最近ソワソワと落ち着かない」
- 「家族や友人から心配されるほど元気がないと言われる」
うつ病の症状は長引くほど固定化しやすく、治療にも時間がかかりやすくなります。上記のような症状に思い当たることがあれば、お早めに精神科の診療を専門とする医師にご相談ください。
- 1) 厚生労働省 うつ対策推進方策マニュアル-都道府県・市町村職員のために-
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/01/s0126-5b2.html