強迫性障害のよくある症状
- ●過度に汚れを恐れて赤切れができるまで手洗いを繰り返してしまう
- ●鍵やガス栓、水道などを何度も確認しないと不安で仕方がない
- ●車や自転車の運転中「誰かを傷つけたかも」との思い込みが頭から離れない
- ●頭に浮かぶ不安なイメージが消えず、思考の切り替えができない
- ●不安を和らげるための行為に多くの時間を費やし、日常生活が大きく妨げられる
強迫性障害とは
強迫性障害(OCD: Obsessive-Compulsive Disorder)とは、自分でも「無駄だ」「意味がない」とわかっているにもかかわらず、それをやめることができない「強迫思考(obsession)」と「強迫行為(compulsion)」を繰り返してしまう状態です。
たとえば、極端な不潔恐怖や確認行為などが代表的で、これらの行為や思考が生活の大部分を占め、大きな苦痛をもたらします。
「几帳面」「潔癖症」といった性格と強迫性障害の境界が曖昧に思えますが「行きすぎた確認や手洗いなどの行動を無駄だと感じていてもやめられず、時間や労力を費やしてしまう」のが特徴です。
強迫性障害の有病率
強迫性障害の「一般人口中の有病率が 1〜2%程度」と報告されています。1)「男女比はほぼ同等」1)であり「平均発症年齢は20歳前後」1)です。男性の方が早期に発症する傾向にあります。
強迫性障害の原因
強迫性障害は、特定の要因のみで発症するわけではなく、複数の要素が組み合わさって生じると考えられています。主な要因として、以下が挙げられます。
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1.遺伝的・生物学的要因
脳内の神経伝達物質(セロトニン、ドパミンなど)の機能異常が関係していると考えられています。遺伝的な要因の関与も言われています。
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2.心理的要因
- 不安を感じやすい性格や完璧主義、責任感の強い性格などが、強迫思考や強迫行為を助長する場合があります。
- 日常生活での過度なストレスやトラウマ、環境の変化なども発症のきっかけとなることがあります。
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3.社会的・文化的要因
- 清潔さや秩序を重んじる文化的背景によって、汚れや間違いを極端に恐れやすくなるケースがあります。
- 社会環境や家庭環境で「失敗は許されない」「常に完璧であるべき」というプレッシャーが強い場合、強迫的な思考や行動に陥りやすいと言われます。
強迫性障害の詳しい症状
強迫性障害の代表的な強迫思考と強迫行為の症状は以下の4つです。
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不潔恐怖と過剰な洗浄
「菌が付いている」「汚れている」と強く感じ、何度も何度も手を洗う、入浴を繰り返すなどがみられます。手荒れや湿疹ができるほど洗い続けてしまうこともあります。
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過度な確認行為
戸締まりやガス栓、電気のスイッチなどを気にしすぎて、外出前や就寝前に何十分も確認を繰り返します。「確認した」記憶が信用できず、不安が払拭できないのが特徴です。
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加害恐怖
「車の運転中に人を轢いてしまったかもしれない」「誰かを傷つけてしまうのではないか」という不安が繰り返し頭に浮かびます。何度も同じ場所を行き来して確認するなどの行為を伴う場合があります。
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儀式行為や数へのこだわり
一定の手順や数を守らないと不安が高まります。また、縁起の悪い数字や日付を極度に避けるなど、日常生活に支障をきたすほどのこだわりがみられる場合があります。
これらの症状は、誰にでもある「気になること」の延長線上にありますが、その思考や行動が過剰になり、繰り返し続けてしまうことが特徴です。
強迫性障害の診断
強迫性障害の診断は、DSM-5(精神障害の診断と統計マニュアル第5版)などのガイドラインにもとづいて行われます。問診により、以下の内容などを総合的に評価します。
- 強迫思考や強迫行為の有無と頻度
- 強迫思考や強迫行為を無駄だと感じつつも止められない様子がみられるか
- 日常生活に支障をきたすほどの時間や苦痛が生じているか
他の精神疾患や身体疾患による二次的症状ではないかを確認するため、必要に応じて身体的な検査や心理的な検査が行われる場合もあります。
強迫性障害の治療
強迫性障害では、抗うつ薬(SSRIなど)を軸とした薬物療法と曝露反応妨害法を主とした認知行動療法(CBT)を組み合わせることが望ましいとされています。
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1.薬物療法
主にSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)などの抗うつ薬を用います。不安や強迫思考の強度を和らげ、精神療法に取り組みやすい状態を目指します。
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2.精神療法
- 暴露反応妨害法(ERP):苦手な場面や不安を引き起こす状況(暴露)をあえて体験してもらい、強迫行為を行わずに不安が軽減する体験を重ねます。
- 認知行動療法(CBT)/コーピング法:不安を感じた際の思考のパターンを見直し、適切に対処する方法(コーピング)を学びます。
当院では、患者様の状態に合わせて薬物療法と暴露反応妨害法(ERP)や認知行動療法(CBT)を組み合わせた治療を早期から導入しています。患者さまが病態について適切に理解し、主体的に治療へ取り組めるようサポートします。
このような症状があれば受診を
- 「鍵やガス栓などを何回もチェックしないと落ち着かない」
- 「手を何度洗っても汚れが気になり、生活が成り立たない」
- 「自分でも無駄だと思うのに、やめると不安が増してどうしようもない」
- 「強迫行為のせいで日常生活に支障が出てきている」
強迫性障害は放置すると慢性化し、生活の制限がますます大きくなる可能性があります。しかし、適切な治療を受けることで症状を軽減することも可能です。患者様自身が強迫性障害について理解できるよう全力でサポートさせていただきます。
- 1) 松永寿人,特集 強迫性障害の難治性―その病像や基準,対応を考える―
強迫性障害の臨床像・治療・予後―難治例の判定,特徴,そして対応―,精神経誌.2013: 115 (9): 967-974
https://journal.jspn.or.jp/jspn/openpdf/1150090967.pdf