自閉スペクトラム症(ASD)のよくある症状
- ●周囲の雰囲気や空気を読み取るのが苦手で、浮いてしまうことが多い
- ●言葉をそのまま受け取りすぎて、冗談や皮肉が理解しにくい
- ●特定の趣味や興味分野に強く没頭し、他のことには関心を示さない
- ●集団行動が苦痛で、一人で過ごす時間を好む
- ●会話の文脈や相手の感情を推測するのが難しく、意図せず失言をしてしまう
- ●自分のペースを乱されると強いストレスを感じやすく、生活や仕事で支障が出る
自閉スペクトラム症(ASD)とは
自閉症スペクトラム障害(ASD)は、社会的なコミュニケーションや対人関係に困難が生じやすい、特定の興味やこだわりが強いなどの特性がみられる発達障害です。
みられる特性や程度は人によって異なり、日常生活への影響や困難の現れ方もさまざまです。かつては広汎性発達障害の枠組みの中に自閉症、アスペルガー障害、特定困難な広汎性発達障害症候群と分類されていましたが、DSM‒5ではASD(Autism Spectrum Disorder)と統一されました。
自閉スペクトラム症(ASD)の有病率
日本における「5歳児の自閉スペクトラム症の有病率は3.22%」1)と報告されています。ただし、言葉の発達が良好な場合は気づかれにくいケースも多く、大人になってから初めて社会生活の困りごとが浮き彫りになり、診断を受ける方も少なくありません。
自閉スペクトラム症(ASD)の原因
自閉症スペクトラム障害(ASD)の原因は、はっきりと解明されていません。生まれ持っての脳の働きの違いなどによって起こると考えられています。保護者の子育てが原因ではありません。遺伝的な要因や環境的な要因の関与も言われています。
自閉スペクトラム症(ASD)の詳しい症状
ASDには多岐にわたる特性があります。
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1.コミュニケーションの困難
- 言葉の裏側の意味を理解しにくい、冗談や皮肉をそのまま受け取ってしまいがちです。
- 相手の表情や声のトーンから感情を読み取りづらさがあります。
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2.社会的な相互作用の難しさ
- 集団行動やチームワークが苦手で、一人で作業することを好みます。
- 他人の気持ちを想像するのが難しく、悪気なく失言をしてしまうことがあります。
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3.限定された興味やこだわり、習慣
- 興味のある分野には深く没頭し、優れた専門性を発揮する場合があります。
- 日課やルーティンが崩れると、強い不安やストレスを感じやすい傾向があります。
特性が社会生活に大きな影響を与える場合、うつ病が併存することも珍しくありません。ASDの特性が見過ごされて、薬が増えてしまうケースもあります。そのため、発達障害を熟知している精神科、心療内科の医師による適切な診断が重要です。
自閉スペクトラム症(ASD)の診断
ASDの診断は、DSM-5(精神障害の診断と統計マニュアル第5版)などの国際的な診断基準にもとづいて行われます。問診や心理検査を用い、以下の点を総合的に評価します。
- 対人コミュニケーションや社会的相互作用における質的な困難があるか
- 行動や興味の限定性、反復性がみられるか
- 幼少期から持続し、社会生活に支障をきたしているか
当院では「WAIS-Ⅳ(Wechsler Adult Intelligence Scale-Fourth Edition)知能検査」を取り入れ、特性の凸凹を客観的に評価します。WAIS-Ⅳは成人用の知能検査で、特定の認知機能の得意・不得意を把握することが可能です。
自閉スペクトラム症(ASD)の治療
ASDは生まれつきの脳機能の特徴であるため「治す」のではなく、特性に合わせた対処や環境を調整し、自分らしく生きるサポートをするのが治療・支援の基本です。加えて、合併するうつ病や不安障害、適応障害などがある場合は、症状に対する薬物療法を行うこともあります。
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1.心理教育・支援
- ASDの特性やコミュニケーションのコツを学ぶことで、自分や周囲への理解を深めます。
- 必要に応じてカウンセリングやソーシャルスキルトレーニング(SST)を行い、対人関係のスキルを身につけます。
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2.環境調整
- 職場や学校での配置転換や支援制度の活用、周囲の理解を得ることで生活しやすい環境を整えます。
- ルーティンを崩さない工夫や、感覚刺激を軽減するなど、本人に合った対策を考えます。
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3.薬物療法
ASD自体を改善する薬はありませんが、併存する不安やうつ症状を軽減するために抗不安薬や抗うつ薬を用いる場合があります。
治療方針は医師との相談のうえで決定し、薬の効果と副作用をバランスよく見極めます。当院では、患者様一人ひとりの特性の把握や生活環境の丁寧な聞き取りに努め、WAIS-Ⅳをはじめとする検査結果を参考にしながら、適切な治療・支援方法を提案します。
このような症状があれば受診を
- 「人と話すとき、なぜか相手が不機嫌になることが多い」
- 「集団行動が苦手で、学校や職場で浮いてしまう」
- 「こだわりの分野はとことん追求するが、人間関係でつまずきやすい」
- 「うつ病や不安障害と診断されたが、どうも根本的に違う気がする」
当院では、知能検査「WAIS-Ⅳ」を導入し、患者様の認知特性や得意・不得意分野を詳しく評価いたします。社会との折り合いが難しいと感じている方、周囲とトラブルが起こりやすくストレスが絶えない方は、発達障害について熟知し、専門的な診療を行う医師の元で診断・治療を受けることが望ましいとされています。
- 1) DINF 障害保健福祉研究情報システム[調査]我が国の自閉スペクトラム症の有病率は3.22%
https://www.dinf.ne.jp/d/2/902.html