社交不安障害

社交不安障害のよくある症状

  • 人前で注目されると極端に緊張し、言葉が出なくなってしまう
  • 失敗や恥を恐れるあまり会議やプレゼンなどを避けようとする
  • 強い不安によって、動悸や発汗・吐き気・手足の震えなどが起こる
  • 他人との接触そのものが怖くなり、学校や仕事へ行くのが困難になる(または行けない)
  • 長期的な緊張状態で疲れがたまり、集中力や意欲が低下する

社交不安障害とは

社交不安障害(SAD: Social Anxiety Disorder)とは、他者の視線や評価を過度に恐れ、人前で何かを行う状況を極端に回避してしまう状態です。
一般的に「あがり症」「人見知り」と表現されることがあります。しかし、社交不安障害の場合、本人の感じる不安や恐怖は非常に強く、日常生活に重大な支障をきたす点が特徴です。
また、不安が身体症状として明確に現れるため「周囲から笑われるのでは」「失敗して恥をかくのでは」という思いがますます強くなってしまいます。

社交不安障害の有病率

社交不安障害は、決して珍しい病気ではありません。日本の「12ヶ月有病率は0.8%と報告」1)されています。
中学生から高校生の思春期に発症することも多く、早い段階での適切な対応とサポートが望まれます。

社交不安障害の原因

社交不安障害は、いくつかの要因が複合的に絡み合って発症すると考えられています。主な原因として、以下が挙げられます。

  1. 1.性格的傾向

    • 真面目で責任感が強く、失敗を避けたい気持ちが強い方は、他者からの評価をより強く意識してしまう傾向があります。
    • 「自分は劣っている」「自分なんて」といった低い自己評価が、社交不安を増幅させることもあります。
  2. 2.環境的要因

    • 幼少期や学齢期に人前での失敗や恥ずかしい体験を重ねると、それがトラウマのように蓄積され、社交的な場面を回避しやすくなります。
    • 職場や学校でのいじめや過度な競争、家庭内の過剰な期待なども、不安を強化する一因となり得ます。

社交不安障害の詳しい症状

社交不安障害では、人前で自分が注目されたり評価されたりする状況を極度に恐れます。具体的には、以下のような場面や症状がよくみられます。

  1. スピーチや発表、会議での発言が困難

    その場に立つだけで強い動悸や震え、発汗が起こり、言葉がうまく出てこないことがあります。

  2. 人と視線を合わせることが苦痛

    相手に自分の動揺や緊張を見透かされるのではないかと感じ、視線を合わせらることが苦痛に感じます。

  3. 飲食の場面や公共の場での行動が苦痛

    レストランや食堂で、人前で食べること自体が不安になり、外食を避けるようになる方もいます。

  4. その他の身体症状

    胸が詰まる感じ、のどの渇き、頭痛や吐き気などが頻繁に起こり、日常生活が制限されやすくなります。

周囲からは「単なるあがり症では」と思われがちです。しかし、本人の苦痛や恐怖感は非常に強く「これ以上恥をかきたくない」「もう失敗はしたくない」という思いから、学校や会社に行けなくなるほど悩みが深刻化してしまうことも珍しくありません。

社交不安障害の診断

社交不安障害の診断は、DSM-5(精神障害の診断と統計マニュアル第5版)やICD-11などのガイドラインにもとづき、問診を中心に行われます。医師は以下の点を確認しながら総合的に判断します。

  • 社交状況やパフォーマンス状況に対する極端な恐怖、不安の程度
  • 恐怖や不安のために、その状況を回避したり耐え続けたりしているか
  • 不安反応が長期間(6ヶ月以上)続いているか
  • 日常生活や社会生活に大きな支障をきたしているか

身体的な病気や他の精神疾患との鑑別も重要なため、必要に応じて検査やカウンセリングを行います。

社交不安障害の治療

社交不安障害の治療には、主に認知行動療法(CBT)と薬物療法が用いられます。認知行動療法が第一選択肢として推奨されることが多く、不安が強い場合には薬物療法を併用する場合もあります。

  1. 1.認知行動療法(CBT)

    「人前で失敗したらどうしよう」という思考パターンを整理し、より現実的な思考や対処法を身につけていくアプローチです。徐々に不安な場面に慣れていき、不安の克服を目指します。

  2. 2.薬物療法

    • SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)などが処方されることが多く、不安の程度を和らげることで、認知行動療法に取り組みやすい状態を目指します。
    • 心身の緊張を抑えるため、抗不安薬や漢方薬を短期的に使うケースもありますが、状態を診ながら慎重に行います。

当院では、まずは社交不安に伴う悩みや困りごとを丁寧にお伺いし、症状の程度や背景に合わせた認知行動療法を中心に進めていきます。不安や身体症状が特に強い場合には、状況に応じて薬物療法の導入も検討しながら、患者様と二人三脚で症状の軽減を目指します。

このような症状があれば受診を

  • 人前で発言・作業をする際、極度の緊張や動悸、吐き気などが起こる
  • 授業や会議に出席するのが怖くなり、不登校や欠勤が増えている
  • 「自分は劣っている」「失敗を許されない」という思いから人前に出るのが苦痛
  • 性格の問題だと諦めてしまい、一人で悩みを抱えている

社交不安障害は、適切な治療によって症状が改善する可能性があります。
「ただの性格の問題」と思い込み、治療を受けずに放置すると、長期にわたる回避行動や自己評価の低下につながり、さらなる悪循環に陥ってしまうことも珍しくありません。
上記のような悩みや症状がある場合はひとりで抱え込まず、ご相談ください。