注意欠如・多動症(ADHD)のよくある症状
- ●重要な約束や締め切りを頻繁にうっかり忘れてしまう
- ●やるべきタスクを後回しにし、全く別のことに夢中になる
- ●静かに過ごす必要がある場面でも落ち着かず、じっとしていられない
- ●思ったことをすぐ口にしてしまい、相手を傷つける発言になって後悔する
- ●整理整頓が苦手で、物をなくすことが多い
- ●長時間の作業に集中できず、気が散りやすい
注意欠如・多動症(ADHD)とは
注意欠如・多動症(ADHD)は、不注意・多動性・衝動性の3つを特徴とする発達障害の一つです。
特に多動性や衝動性が強いタイプは、子どもの頃から「落ち着きがない」「言うことを聞かない」といった特性がみられます。小児科や精神科を受診して早期に診断されることもあります。
一方で、不注意の症状が中心のタイプは大人になってから気づかれるケースも珍しくありません。「社会人になって仕事でミスが続く」「対人関係がうまくいかない」などの問題を抱えて初めて「もしかしてADHDかも」と受診につながることもあります。
注意欠如・多動症(ADHD)の有病率
注意欠如・多動症(ADHD)の日本における「成人期ADHDの有病率は2.09%」1)という報告があります。世界保健機構(WHO)による「成人期ADHDの世界的有病率は3.4%」2)とされています。
注意欠如・多動症(ADHD)の原因
ADHDの原因は一つではなく、複数の要因が絡み合って発症すると考えられています。主な要因としては、以下が挙げられます。
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1.遺伝的要因
遺伝的な要因が関与することが言われています。単一の遺伝子によって引き起こされるのではなく、多くの感受性遺伝子の関与や、家族歴や家族内にADHDがみられることも要因の一つとして考えられています。
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2.脳の機能や発達の特徴
前頭前野を含む脳の一部において、神経伝達物質(ドーパミンやノルアドレナリンなど)の働きが通常とは異なる可能性が示唆されています。発達の過程で神経回路の形成が影響を受け、不注意や多動・衝動性が現れるという見方があります。
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3.環境的・心理的要因
注意欠如・多動症(ADHD)は先天的な要因の影響が大きく、保護者の育て方が直接の原因とはなりません。
過度のストレスや周囲の理解不足などの環境的な要因が症状を悪化させ、予後に関わる場合があります。学校や職場の環境が本人の特性に合わない場合、問題が顕在化しやすくなる可能性があります。
注意欠如・多動症(ADHD)の詳しい症状
ADHDと一口にいっても「不注意が主なタイプ」「多動・衝動性が主なタイプ」「両方の特徴が混在する混合型」など、症状の現れ方は人それぞれです。
不注意、多動性、衝動性でみられる具体例を以下に挙げます。
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1.不注意の具体例
- 忘れ物や紛失物が多く、整理整頓が苦手
- 大事な話や作業手順を聞き逃したり、抜け落としたりする
- 長時間の集中が難しく、気が散りやすい
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2.多動性の具体例
- 周囲が落ち着いている場面で一人だけソワソワ動いてしまう
- 集中が長続きしないため、あちこち気が散る
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3.衝動性の具体例
- 会話の途中で割り込んだり、思ったことをすぐ口にしてしまう
- 順番を待てずにイライラしてしまう
特性により、学業や仕事、対人関係などの生活全般に深刻な影響を及ぼすと、本人も周囲も大きなストレスを抱えることになります。放置しておくと自己評価の低下や二次的な心の問題(うつ病、不安障害など)を引き起こすこともあるため、早期の対応が望まれます。
注意欠如・多動症(ADHD)の診断
ADHDの診断は、DSM-5(精神障害の診断と統計マニュアル第5版)などの国際的な診断基準に沿って行われます。医師が詳しく問診を行い、幼少期から現在に至るまでのエピソードや行動特性を確認します。また、他の発達障害や精神疾患との鑑別も重要です。
当院では、成人の知能検査として「WAIS-Ⅳ」を導入し、認知機能の特性や得意・不得意な領域を把握することで、患者様自身が特性を知り、今よりも生活しやすくするための工夫やアドバイスに活かしています。
注意欠如・多動症(ADHD)の治療
ADHDの治療は、薬物療法と心理社会的支援の両面からアプローチを行います。
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1.薬物療法
- ADHD症状を改善する主な薬剤として、メチルフェニデート製剤(コンサータ錠など)やアトモキセチン、グアンファシンなどがあります。
- 当院の院長は「コンサータ錠登録医師」であり、認定を受けた医師のみが処方できるコンサータ錠も取り扱えるため、幅広い治療選択が可能です。
- 薬の効果や副作用は個人差が大きいため、相談しながら慎重に調整します。
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2.心理社会的支援
- 認知行動療法(CBT)やカウンセリングを通じて、自分の思考や行動パターンを客観的に捉え、生活上の工夫を身につけていきます。
- 仕事や学業の場面でのスケジュール管理、タスク管理、環境調整など、本人が行いやすい方法を取り入れ、周囲の理解・協力を得て環境を整えることが大切です。
このような症状があれば受診を
- 「大事な約束や提出期限を何度も忘れてしまい、周囲の信頼を失っている」
- 「やるべきことを後回しにして、興味のあることばかりしてしまう」
- 「人が静かにしている場面で落ち着きがなく、じっとしていられない」
- 「思わず失言してしまい、トラブルや人間関係のストレスが絶えない」
- 「子どものころから注意散漫と言われ続け、大人になってからも仕事でミスが多い」
ADHDは生まれつきの脳機能の特性であり、本人の性格や保護者の育て方の問題ではありません。適切な治療やサポートを受けることで、生活の質を改善できる可能性があります。上記のような症状に心当たりがある方は、早めに発達障害について知識が深い医師の受診を検討してください。
当院では、知能検査「WAIS-Ⅳ」を活用し、患者様の特性を把握し、お困りごとやライフスタイルに合わせた治療法をご提案いたします。
- 1) 「厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
成人期注意欠陥・多動性障害の疫学、診断、治療法に関する研究.中村和彦.平成21(2009)年度総括研究報告書」(厚生労働科学研究成果データベース)(2025年2月19日に利用)
https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/18591 - 2) 飯田順三.成人期ADHDの臨床像,精神雑誌,2015.117(9)
https://journal.jspn.or.jp/jspn/openpdf/1170090763.pdf